君との期限。
留伊のようで友情六はのようで伊←留のようでもある

「伊作、」

委員会から帰ると、珍しく先に伊作が部屋に戻っていた。いつも保健委員は夜遅くまで仕事をしているのに、と少し驚きつつも声を掛けると膝を抱えて俯いていた伊作がゆっくりと顔を上げた。視線が交わり、伊作がふわりと笑う。…いつもの笑みじゃない。

「なにかあったか?」

戸を閉めつつも訊いてみる。こいつは、自分が落ち込んでいても自分から発信したりしない。ただ寂しそうに笑うのだ。これは六年間側に居たからこそ分かる微妙な変化だろうが俺は見落とさない。

「…留三郎は、もう勤め先が決まりそうだろ」
「ああ、元々俺は戦忍志望だからな。戦忍はいくら居たって足りねぇんだとよ」

就職の話か、と何となく理解して隣に腰を下ろす。頭巾を取り払って髪留めも解く。この時期になるとどうしても悩みの種になる問題だ。誰もが通る道だし、仕方ねぇことだけど、な。

「僕さ…忍になるの、ちょっと迷ってる。進路相談で先生に言われたんだ。僕の優しさは、仇になるって。…そんなの仕方ないじゃないか、性分なんだから。別に僕は自分が嫌いって訳じゃないけど、」

お互いに前を向いたまま、伊作はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「自分の長所だと思ってた所が足を引っ張ってるんだ。少しやってられないよ」

委員会も早く切り上げちゃった、と溜息混じりに呟き、膝に顔を埋める。それきり、伊作は黙り込んだ。そして沈黙が流れる。暗くなった外からは虫の鳴き声が聞こえ、障子の隙間から入り込む風は少し冷たい。もうすっかり秋だ。あと半年、それがこいつと居られる期限。

「…少なくとも俺は、お前の優しさに救われてきたぜ」

一年生の頃から一緒だった。楽しいこともあり、勿論つらいことも共に乗り越えた。初めて瀕死の怪我を負った時、初めて同期の死に立ち会った時、初めて人を殺めた時。いつでもこいつの優しさに包まれてきた。そのお陰で今の俺がいるんだ。

「優しい忍がいて何が悪い。優しさが仇になんてなるもんか。お前の柔和さに何人の奴が救われてきたと思ってんだ」

伊作の肩が小刻みに揺れている、きっと泣いているのだろう。泣くな、とは言えなかった。その代わりに、その姿を見ていたらやたらと切なくなって胸が締め付けられた。お前の優しさに触れられるのもあと少しなんだ。そう実感して少し身震いした。

「お前のそういう所が好きだったんだ、…大切にしろよ」
「う、ん」

あと半年、だけ。その期限まではどうか、その優しさに包まれていたいんだ。冷たい風が憎い。なんだか悲しくなってしまって、頭巾で乱暴に目頭を拭った。短い秋の次には、最後の冬が待っている。


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いちゃいちゃラブラブな二人を書く予定だったのに…あれ??
秋はなんだかこーゆう話が書きたくなる。一番リアルですよね、別れってものに対して。
夏は「まだ結構ある」と思うし、冬は覚悟をしながら過ごす。一番葛藤のある季節だと思います。
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